君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「ここでいいよ、寒いから」
「そう?」
駅に入る前に、別れる。
じゃあね、とか、気をつけて、とか、そのくらいの軽いあいさつだけ。
近所なので軽装で出てきていた私は、両腕で身体を抱きながら、階段を降りる秀二の背中をしばらく見ていた。
懐かしくて、まだ大好きだけど。
もう、過去の人。
バイバイ、とつぶやいた声は、白い息になって消えた。
聞き覚えのある音がする。
なんだっけ、これ、目覚ましじゃなくて。
そこまで考えて、はっと目が覚めた。
エントランスのチャイムだ。
ベッドから降りざま、時計を確認すると、朝の10時。
宅配便だろうか、とインターホンのスイッチを押す。
モニタに映っていたのは、秀二だった。
「なにやってんの…」
「帰ってから気づいた…」
充電しに来た時と同じく、秀二はエントランスでおとなしく待っていた。
私はとりあえず部屋着にダウンを羽織って降りてきた状態。
当然ノーメイクだ。