やっぱり愛おしい
たとえお願いされても、私は貴晶さんの愛人になんてなれない。
どんなに好きでもそこまでは無理だから離れていくと決めたのに、貴晶さんの顔を見ると、やっぱり愛おしい気持ちがこみあげてしまう。

そうこう考えているうちに、洗い物は完了して、手を拭いてキッチンからリビングに移動したと同時に、身支度を済ませた貴晶さんがスーツのジャケットを近くの椅子にかけると、ネクタイを締めながら私の方へと歩み寄ってきた。

仕事モードのスイッチが入り、貴晶さんから段々と藤堂部長へと変わっていく。その顔を見るのも好きだった。

昨夜あんなに触れあって、たくさん愛されたのに、今でも逞しいその胸に抱きついて、ギュッと抱きしめられたいと思ってしまう私は、本当に往生際が悪くて、相当重症なほど好きなんだと思う。
そんなことでどうするの?
忘れられなくなるじゃない。
ただの部下に戻れるように努力するって決めたのに。
封印するって決めたのに。

そんなことを思っているうちに、貴晶さんは私のすぐ目の前に来て、ジッと私を見下ろした。
すべてを見透かされていそうな気がして、緊張感で胸が高鳴る私に
「茉優莉。」
大好きで愛おしい声が降り注いだ。
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