人喰いについて
「本当君は純粋だね」
閉じていた瞼をゆっくりと開ける。
純粋なんて言葉、私に向けられるなんて思ってもみなかったからだ。
「………、知ったような口ぶりですね」
「そんな毒吐かないでくれよ。ほんとにそう思ったんだよ」
「へえ。………私は、この世の中がとても嫌いなのに?」
凛とした声でこの世を否定する那智に、紺は手を止めた。
縁側で横たわる彼女の顔が見えるように流し台を離れると、紺は何を思ったのかしゃがみこんで那智の顔に影を作った。眩しかった太陽の光が遮られて。紺さんありがとう、少し視界がマシになりました。
「どうしてそう思うの?」
「そうですね……汚いから、ですかね」
「汚い?」
「はい」
――――人口爆発が起きた。
世界は混乱する。飢餓が起きた。人喰いが現れる。
彼らを利用して世界は混乱を抑えた、自ら仲間を餌として。
「人間は自分がかわいくて仕方ない、自分が大切なんです。本当の危機に立たされた時、仲間すら売れてしまうほどの卑劣な生き物なんですよ」
私がそうであったように。
だから私はそんな自分を醜く思えてしまう。
そういう過去を持ったこの世の中を汚く思えてしまうのだ。
「……こんなくだらないこと考えてる人間が、純粋だと思いますか?」
「…」
きっとこの世界の種が半分になってしまった時から、純粋さを残している人間はめっきり減ってしまった。
そうなってしまったのは、多分人喰いだけのせいではない。