人喰いについて
手が優しく頬に触れた。涙したわけではないのに、紺さんの手は頬をなぞる様に動く。
こんなに誰かの近くにいたのは初めてだった。両親と仲が悪かったわけでもないけれど、むしろ人並みに愛情はもらっていたけれど、なんでだっけ。私自身がそれを拒んでいた。
「思うよ」
「……え、」
「こうやって、人喰いの俺を拒まないでいてくれる。君はまだ、人を信用する心を持っているんだから」
「それは、流れっていうか、」
「ほんとに嫌だったら今すぐ俺のそばを離れて助けを呼べばいいんだ。……受け入れてくれている、そうだろ?」
人喰いを恐れず、前を向いて生きていけてるのは那智がまだ自分の中でちゃんと芯を持っているからだ。
本当に穢れてしまっているのなら、君は周りの人間を人喰いに差し出すような人間になっていると思うんだけど。
馬鹿みたいに直球に言われた言葉は、紺さんの優しさで溢れていた。
「自分にもう少し、優しくなってあげてもいいんじゃない?」
(嗚呼、私は)
もう少し自分に誇らしく生きてもいいのか。
あんなに大切にしてくれていた両親に、あんな”仕打ち”をしでかした私に、救いがあってもいいのか。
そう思ったらなんだか汚い、汚いと自分を卑下ばかりしていた心が軽くなった気がした。
「、紺さんは……優しいですね」
「そんなことない。少し君より長く生きているから、経験値がちょっと上なだけさ」
「………だから、あなた何歳ですか、もう」
やっぱり、彼には人喰いなんか似合わないと思う。