トワイライト
「ちなみに澪が亡くなってからはあなたの行方も解らず仕舞いでしたから、ずっと私は澪の子供であるあなたに二度と会う事はないと思っていました。でもあなたの子供である双子の妹有さんが記憶を失くして、このトワイライトの浜辺に流れ着いた時に、有さんが私をあなたに引き合わせるきっかけをくれたのです」
  と言う治子のその声は心なしか少し震え、目には涙がうっすらと滲(にじ)んでいた。




  そして治子の話をじっと聞いていた理子は
「なんて事でしょう。私今迄母が死んだ事すら知りませんでした。ちなみに私が母と最期に会ったのは私が20歳(はたち)の時でした。私はその時美有と有の双子を身ごもっていて、とても不安定な時期だったので、母に妊娠初期の事に関する詳しい事を聞きたいと思い、その時私は母が好きだと言うサファイアブルーのアスターのブーケを持って、相談に行ったんですね。




  でも私が差し出したそのお花を母はちっとも喜んではくれなかったんです。だからその時私は『ああ、母は今幸せじゃないんだな』とその時そう感じたんです。だって人って花を贈られると幸せな気分になるじゃないですか。それなのに母は娘から贈られた花を見て、少しも嬉しそうではなかったんです……」




「そうですか。澪はあまり良い男性に恵まれないで人生を終えたみたいでしたから、多分澪は理子さんに会った時も経済的苦労や精神面での苦悩を抱えていたのでしょう。裏を返せばつまり澪は実の娘の思いやりに気づけないほど、その時に生活に疲れ果てしかも心が病んでいたと言う事なのかも知れません。だからその時の澪の心境は、とても花を愛(め)でる心の余裕すらなかったのでしょうね」
  と治子は言った。
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