トワイライト
「ええ。そうですね。なにぶん私もその時は人生経験が浅く、人の心の微妙な心理などとても読む事の出来る年齢ではありませんでしたから、その時私はその母の反応にやるせない気持ちを抱いたまま母と別れたんです。そしてそれからは私も子育てと仕事の両立でとても忙しくなり、母に会いに行く時間が取れずにいましたので、その後の私は母の事を人づてに聞くだけになっていました。でも一応母は元気にしているようだったので、私は安心をしていたのです。




  でもまさかこんなに早く母が死ぬなんて事私思ってもいませんでした。こんな事になるのなら忙しさの合間をぬってでも、自ら母に会いに行く時間をもっと頻繁に作れば良かったと、今ではつくづく思います。ちなみに人間ってどうしてこうも愚かな生きものなんでしょうか?過ぎた後になってから気づく事があまりにも多過ぎて……」
  と理子が後悔の念にかられて言うと、




「そうですね理子さん。往々(おうおう)にして人間とは愚かに出来ているものらしいですね。でも今現在の時点でそう気づけたのならば、その過ちを二度と繰り返さないように少しでも努力をする事が筋と言うものではないですか?理子さん今まさにあなたは、有さんと今まで行き違がってしまったいくつかの誤解を解いて、心からの親子の理解を深め合う時期なのだと私は思います。かつてのあなたと澪との過ちを二度と繰り返さない為にも。ちなみに有さんはとても利発で優しくて、しっかりとした娘さんですよ。私がこの島で有さんを見てきてそう思うのだから間違いはないわ」
  と治子は理子にやさしく言った。







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