最後の恋―番外編―

やっぱりそんな私の思考の変化さえお見通しな、美月マスター学は、ハンドルに突っ伏して肩を震わせながら声を殺して笑っていた。


「……はっきり笑ってくれた方がいいんだけど」


すこしふてくされながら言っても、「ごめんごめん」と涙を浮かべて笑い続けている。そんな学を見ていると、ふてくされた感情がすぐにしぼんでなくなってしまう。学が笑ってくれるならまあいっか、なんて思ってしまうのだ。

付き合ってからあんまり大きな喧嘩をしないのは、こうやって怒っていることさえどうでもよくなるくらい、学が好きだからだと思う。

お互いに不安なこと、思ったこと、感じたことを、結構素直に伝えっているのもいいのかもしれない。
些細な擦れ違いも、結局は相手を好きすぎるがゆえのことばかりだ。

相手が好きだから不安になって。
不安になるからすれ違って。
それでも好きだから、言葉にして、もっと相手を好きになって。

相手が笑ってくれれば、それだけで自分も笑顔になれる。
悲しければ、それを分かち合って、すこしでも力になりたくて。

きっと私と学は、好きになるスタンスが似ているのかもしれない。
だからこそ、こうやって素直でいられる。


「学のせいで、どんな顔して宮田さんに会えばいいのか、余計わからなくなっちゃったじゃん」

車を降りて、口をとがらせながら文句を言いつつも、差し出された手は当たり前のように握ってしまう。
あの時と同じログハウスへと続く道を、学と肩を並べて、手をつないで歩いていく。

見渡す限り緑だった景色は、葉が落ちて、裸の木々が並ぶ寂しいものに変わっている。
吐く息は白いし、歩いている私たちの恰好も冬仕様に変わっている。

黒いジャケットにワインレッドのインナー、黒のスキニージーンズに黒のブーツ。首に巻いている赤いマフラーがアクセントになっている学は、やっぱりモデルみたいにかっこいい。
それに対して私は、カーキのコートに赤のマフラー、焦げ茶色のスキニージーンズにスニーカーという、オシャレよりも歩き易さと寒さ対策を重視した格好で、色気のカケラもない。

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