散華の麗人
時は少し遡る。
一正と雅之は執務する為に書庫へ来ていた。
「寝ていろ。」
悪態を吐くように雅之が言う。
手にはいくつかの名簿がある。
「あんたに心配されるとはなぁ……」
一正はへらへらと笑っている。
「こうしている方が気が楽なんや。」
「ほう。気が知れぬな。」
雅之は目を細めて書類を見る。
「しかし、陸羽派である者の名前から交友まで調べ上げて何になる。」
「本当に信頼できる者を見極めるんや。」
「その口振りだと、本当に戦でも始めるようだな。」
「そうかもな。」
一正は笑う。
真意が読めないような笑顔に雅之は気に食わないというような表情をした。
「恐らく、秀尚はわしに不信感を持っとる。このタイミングでの政権譲渡だけやない。今までのわしのやり方は矛盾と偏りだらけや。」
「自覚があるようでなにより。」
雅之は嫌味らしい口調で言う。
「そのやり方をわしなりに変えようとはしたが、結果としてこのザマや。このままではわしだけやなく、この国にも先はない。それゆえの此度の件や。」
「それで?」
雅之は威圧感を込める。
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