散華の麗人
夜に似たその闇はいかなるものも拒むようで
全く動じない感情に人間らしさが欠如している。
「人間風情に」と普段のような言葉を口にしようとして、噤んだ。
(此処で時間を喰っている場合ではない。)
無駄なことだ。
たった一言言うだけだ。
ぐぬぬと唸ったが、大人しく観念することにした。
「感謝している。」
棒読みで無感動な謝礼に女将はそのままの姿勢で不満げに見る。
「かわいくねぇ、ぼうやだね。親の顔が見てみたいものさ。」
「黄泉で会えるだろうな。」
返せという視線で景之は女将を見る。
「え?」
女将は目を丸くする。
「ぼうや……」
気の毒そうな視線
同情している顔
「先を急ぐ身だ。余計な詮索に時間を割いてはいられない。それを返すつもりがないのなら、このまま失礼する。」
景之はその視線を意に介さずに言う。
「そうかい。そうかい。……まぁ、何かあったらいらっしゃいな。」
「……」
女将から服を受け取ると、景之は無言で立ち去った。
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