彼氏が犬になりまして
バタバタと、慌ただしくドレッサーの前に向かうと自分の髪を撫でながら入念に犬耳がないか確認している。
「やった!引っ込んだ!」
意気揚々と興奮した面持ちでアタシの方に振り返る。
「あ……」
振り返った途端、ひょこっと犬耳が姿を現した。ドレッサーの鏡にも、揺れる尻尾が映っている。
「……優輝、もう一回鏡見て」
「ん?ーーはぁ!?なんで?!」
また犬化した自分の姿を見て、驚愕した挙げ句、ぺたんとその場に座り込んだ。
「あー……たぶん、興奮したから?テンション上がると犬化しちゃうんじゃない?」
「そんなぁ~……」
ーートントンーー
「美希~、朝ご飯~。優輝君の分もあるわよ~」
ドア越しに、母ののんびりした声がする。ガチャリと、ノブに手がかけられた。
「わっ!わっ!ちょっと待って!」
優輝が慌ててフードを被る。
「ア、アタシがやるから!お母さん下行ってて!」
母が部屋に入る前に、手からお盆をひったくった。たっぷりブルーベリージャムを塗ったトーストと、シーザーサラダにアップルジュース。ゼリーまである。日曜の早朝に押し掛けてきたヤツには贅沢な朝食だと思う。
「あらあら、はいはい。二人とも、仲良くね~」
「おかあさん、朝食ありがとうございます」
「おかあさんって言うな!」
「優輝君、美希をお願いね」
「何をお願いするのよ!さっさと下りて!」
「はいはい」
母はにやにやしながら階段を下りていく。まったく……。
「もうフード脱いでいいよ」
「ふぅー、焦った」
フードを脱ぎながら呑気に言って、さっさとトーストに手をつけ始める。
「こら。『いただきます』は?」
「いただいてます」
「はい。いただきまーす」
アタシもサラダに手を伸ばす。レタスがシャキシャキして美味しい。
「なぁ~美希~……」
「なによ?」
「この耳どうしよ……」
「知らないわよ。さっきは引っ込んだじゃない」
「でもすぐ戻っちまったし……」