彼氏が犬になりまして
「平常心でいたら、なんとかなるんじゃない?」
「簡単に言うなよ……」
「簡単じゃないけど、その耳どうにかしなきゃ、明日学校どうするのよ?」
「わ、わかってるよ、頑張るよ……」
「頑張ってもらわなきゃ困るわ。今日一日つき合うから、平常心の特訓よ!」
「はーい……」
もごもごと、なんだか食べるのが遅くなった気がしないでもない。
嫌がろうと、なんであろうと、頑張ってもらうものは頑張ってもらうわ!
「ほらっ!さっさと食べる!」
「わ、わかったって!口に押し込むなよ!」
「早く食べて早く特訓するの!」
「わ~かったってば!ったく……なんで犬化なんてするかなぁ……」
「そんなの、こっちが聞きたいわよ。まったく」
朝食を食べ終えて、食器を片付けた後は、ひたすら犬化をコントロールする特訓に励んだ。
ーーんだけどーー
一向にコントロール出来ていない。すぐに引っ込められるようにはなったのだが、同じぐらいすぐに犬化してしまう。
本当に、ちょっとした感情の変化で犬耳と尻尾が生えてしまうのだ。
「もう、犬化してる方が楽なんだけど……」
「そんなこと言ったって、それじゃ外に出られないじゃない」
「そうだけどさ……んー……」
ふわっと、すぐに犬耳は髪に紛れて見えなくなった。尻尾も消える。
「生えるなよ~生えるなよ~」
鏡の自分と睨み合いながら、ぶつぶつと唱えて頭を撫でている。
ここだけ見ると、育毛か何かをやっているように見えなくもない。
ーーハゲは、ちょっとヤダなぁ……
なんて考えながら、そうっと優輝の後ろに歩み寄る。鏡に映ってしまわないように注意だ。
ーーそうっと……そうっと……ーー
「わっ!」
「うわっ!?」
ぽんっと背中を叩いて驚かせると、面白いぐらい飛び上がった。
ひょこっと犬耳と尻尾が生えてくる。
「あーもー……ダメじゃない!ちゃんと生えないようにコントロールしなきゃ!」
「むむむ、無茶言うなよ!おどかしといて!」
「これも優輝の為よ」
「心臓がもたねぇよ……」
「ほらっ!もう一回引っ込める!」
「ちょ、ちょっと休憩……」
「も~しょうがないなぁ」
へなへなと座り込む優輝に、ほいっとチョコレート菓子を放る。
「それ、食べたら再開ね」
「えー……」