恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
その電話を受けたのは遅番の仕事上がり、自宅に帰ってきたところだった。



「なんで俺の番号知ってんですか」

『あの子から聞いた。今はお前と話すの嫌なんだと。俺、伝書鳩』



電話の向こうで可笑しそうに唇が歪んでいるのが、目に浮かぶ。


恵美ちゃんとは、あの飲み会の日から明らかに避けられていて、俺も敢えて話しかけてはいなかった。


が。


そこでなんでこの男が伝書鳩に抜擢されたのか、その経緯がわからん。
俺に対する嫌がらせか、と。


今はそれ、洒落にならないけど。



「で、わざわざ伝書鳩飛ばして、恵美ちゃんは俺になんの用ですか」

『美里がさ、ちょっと前から郵便受けに嫌がらせされてんだけど』

「知ってますよ、昨日聞いたんで。いや、もう今朝だっけ」



っつか、ほぼ今朝だけど。
このおっさんが美里って呼び捨てにすることに、神経がピリピリする。


だからかもしれない。
つい、『今朝』なんて余計なこと言い足したのは。



『…… あ、そう』



電話で沈黙するほど、無駄なことってねぇな、と思う一瞬だ。



『そういや、昨日会ったみたいだったもんな。……お前、なんかした?』
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