恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
昨夜のことを、隠すのは卑怯な気がした。
けれど、正直に言うのも狭山の顔が浮かんで言えなかった。



「………一旦距離を置こうってなりましたよ。満足っすか」



それだけ言った。
綺麗さっぱり振られた、とも言わない。


あんなことしておいて、俺はまだ未練たらたらだ。



『ふぅん』



それだけ言って、たっぷりの間を置く電話越し、この男は何もかも見透かしてんじゃないかと苛立ちが湧く。


カッコばっかつけて、本当は余裕なんかどこにもない俺に気付いて笑ってるような気がした。



『………で。話戻すが、あの子が心当たりがあるっていうんだが』



少しの沈黙のあと、あっさりと会話を戻した男に拍子抜けする。
これ以上突っ込まれずに済んで安堵した、ことも確かだ。



「心当たり、ですか」



恵美ちゃんが、心当たりがありこの男に俺の連絡先を教えた。
そのことから、ひとつの予感。



――― もしかして、恵美ちゃんの心当たりってうちの人間ってことか。


『悪戯された日を俺が聞いてるから、シフトと照らし合わせればある程度確証が持てるんじゃないかって話。シフト表あるか』

「……ありますよ。少し待ってください」



仕事に持ち出す鞄を手元に引き寄せながら、重々しい溜息が出た。
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