恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「そうよ、帰りに寄ってみたの。売り上げどう?」


「午前に大口いただいたので、今日の予算はばっちりクリアしてますよ」


私は片手の親指と人差し指でOKサインを作ってみせる。
満足そうに頷く店長の後ろから、スーツ姿の男性が一歩近づくことに気づいて、目線を上げた。


「お疲れ様です。ご無沙汰してます」

「お疲れ様。売り上げ順調そうで何よりです」


本社営業の一条さんだった。
この地区の店舗管理を担当されていて、時々各店舗の売上げ状況や商品展開などを見て回っている。


しかし営業会議の後で態々来店かと思うと、うちの業績はもしかして良くないのかと身構える。
一条さんは一見人当たりの良い王子様タイプの優男だが、業績に関しては時に手厳しい。


「2度言いますが、今日はちゃんと予算クリアしてますよ」

「はは、そんなに怯えないでくださいよ。今日は狭山さんにお話があってきたんです」


私の緊張がわかったのか、一条さんは苦笑してそう言うが…私自身に話と言われれば余計に怖くなる。


…私、なんかしたっけ?
先月提出した本社向けの報告書やらが頭を掠めた。




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