恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
組み立てたダンボールを床に置くと、部屋を見渡した。
正直、気が遠くなる。恵美が来てくれなかったらどうなってただろう。


「恵美、なんかいるものあったら持って帰っていいよ。電化製品とか家具とか、実家にあるから全部リサイクル業者に引き取ってもらう予定なの」

「そうなの?じゃあ引越しで運ぶのって」

「箱詰めした雑貨とか服とか日用品だけ。ベッドも実家にあるしね。赤ちゃんのもの増えるのに、自分のものあんまり持ち込めないし」


引越しは5日後。
明日と明後日仕事に出勤して、それで最後だ。


本当は、その翌日には引越ししてしまいたかったけど荷造りもあるし仕方ない。


「家具とか運ぶなら兎も角、それだけなら引越し業者に頼むの勿体無くない?」


恵美が、食器を新聞紙に包む作業をしながら言った。
あと数日、使いそうな最小限のカップだけ残してくれている。


「そうなんだけど、自分で運べないし最低でもボックス車か軽トラくらいは必要だろうし。だったら、業者に頼むのが考えなくていいかなって思って」

「勿体無いなぁ。男手なら藤井さんに頼んだらやってくれそうだし。社用車で荷物積めそうな車あるんじゃない?」

「いやいや。そんなの頼めないよ」


いくらなんでも厚かましいよ、それは。
藤井さんの名前が出たことに、驚いて目を瞬いていると。


「藤井さん、仕事終わったら来てくれるって。得意先でキレイなダンボール見繕ってくるって言ってたよ。足りないでしょ、多分」


更に驚かされる。


「えぇ?藤井さんに、頼んじゃったの?私引っ越すことも言ってないんだけど…」


藤井さんは、あれから何度か売り場には来てくれていたが、引越しすることを言えず了いだった。


春に異動になるかもしれない、ということは知っていただけに、なぜ春を待たずに今引越しなのかを上手く説明する自信がなかった為だ。


「うん、まぁ。勝手にしてごめんね。だけど、ちょっと手助けかな」


恵美が、何か意味を含んだ言い方をする。


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