恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
異動なんて、珍しいことじゃない。


そんな可能性、いつだって充分あったのに、ずっと顔が見れる距離にいる気がしてた。




「… 顔が見てぇ」



声が聞きてぇ。


始まりが悪かろうがなんだろうが


理屈もモラルも自尊心も全部些細なことで。


今、一緒に居たかった。


それだけで、よかった。




手元の携帯に目を落とす。

スクロールすれば、簡単に狭山の名前を見つけられる。


「どうせ、でないんだろうしな」


かける気はなかったけど。


どうせ、出ない。


そう思えば、逆に、簡単に発信できてしまった。


それは拒否されていることもなく、普通に呼び出し音が鳴っていて。



『もしもし』


……出ないと思っていただけに。

こちらから掛けておきながら奇襲にあった心境だった。



「出るのかよ…」

『出ないと思ったならなんでかけたのよ』



以前と同じようなやり取りが繰り返されて、同時に笑いが漏れたのが、電話の向こうから聞こえた。


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