恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「これが入る大きさって、赤ちゃんってそんなに小さいの?」

「新生児の頃は、こんくらいってことだろ」


私も、別の数枚を手にとって掲げてみた。
袖のところなんて、細すぎて。


「きゅうりは入ってもナスビは入んないな」

「この大きさだと、胴体がこれくらいだろ、この中にちゃんと内蔵があるわけだろ…」


笹倉が、赤ちゃんの胴回りを想像して手で輪っかを作っている。
私は、今日の衝動買い、というか恵美の策略買いの結果を見渡して言った。


「まだお腹も目立たないのに、親バカみたい」

「最初の妊娠なんて皆そんなもんじゃね?」


まだ彼の手は空想の赤ん坊の大きさを計っている。


「笹倉が、案外あっさりと状況に慣れていってることにちょっとびっくりしてる」

「ん…… そりゃ、最初は驚いて動揺したけど。お前らが買い物してるの見ながら、考える時間は結構あったからな」


広げた肌着を、丁寧にたたみ直し始めた笹倉の手を、私は見下ろす。
大きいけれど綺麗な手は、ラッピングする時みたいに器用に動く。


「23から25くらいの男ってさ、結婚したくなる年齢なんだって。あながち、嘘でもなかったんだな。俺、今結構嬉しいし」


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