恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
そんなことない。
以前はもっと、ラジオ体操的なノリだった!


頬の熱のおさまらない私は、少し首をかしげ非難の視線で彼を振り向く。

だけど、笹倉の目は至近距離でもわかるほど優しくて甘い。

何、この人、今までとは別の生物みたいなんだけど。



「お前に合わせてたら、一生こういう空気にはならなさそうだし」



私の髪を掌で掻いて、横に流すとうなじに唇をつけて話す。

こそばい、くすぐったい、こそばい、くすぐったい!



「もう!やめて、今はエッチしないからね!」



両掌を遣ってもがいて、抗議の悲鳴を上げる。

すると、あ、と背後で間抜けな声が漏れた。


「そうだ、今はできねぇわ」

「……」


いや、ほんとはできるけどね、ちょっとくらい。

でもなんか、イヤ。

私一人で、あたふたさせられてるんだもの。


「うっかり当たったら、ダメだもんな」

「……は。当たるって、どこに」

「あかんぼ」

「どんな構造?!」


そんな訳あるか。

思わず全力で突っ込んだけど、彼はそれでも、可笑しそうにくすくすと笑ってて。




…随分、幸せそうじゃんか。




そう、思ったら。


あの返事は、そうそうには言えないけれど。




『幸せかな。』



これくらいなら、伝えてみてもいいかもしれない。

近い、うちに。


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