恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「別に番号くらいいいだろ、今更勿体振るなって」



私が手を振り払ったのが、癇に障ったのだろう。
目の前の某君が不愉快に眉根を寄せた時、私は背後の人の気配に気を取られていて。


それはホンの一瞬のことで。
なんでレンガを叩く革靴の音なんかで、彼だと思ったんだろう。


まぁ…丁度待ち合わせの時刻だったから、だったらいいなって希望的観測が当たっただけのことなんだろう。



「うちのに何か用?」



同時に、額に触れた掌に後ろに引かれて、背中を抱きとめられる。
声があんまり、低いものだからてっきり睨みでも利かしてるのかと斜め上を見れば。


上得意様向け特上営業スマイルの、笹倉が居た。



「おつかれ」



下から声をかければ、私に向けられたのは営業スマイルでもなんでもなく。
ぎろりと流し目で睨まれる。



「ちょ、なんで私を睨むのよ」



睨むならあっちでしょ、と。
成り行きについていけず無反応の某君を指差した。



「うるさい。お前なんでこんな薄着でうろついてんの。ってか、市役所の中で待ち合わせっつったろ」

「え、でもちゃんと厚めのタイツ履いてるし。スーツに合わせた方が良いかなって」



不機嫌な目線は私の出で立ちにあったようで。

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