恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「先生!なんか美里、変なんですけど!こんな辛そうなの…」



助けを求めずにはいられなくて、彼女の汗を拭いながら医師と助産婦を交互に見る。



「旦那さん、彼女に声かけてあげて。焦らないでゆっくり息を吸って、ゆっくり吐く!」



――― ほんとに大丈夫なんかよ…!



医療知識の無い俺が、いくら心配したって医師の言われる侭にするしかない。
陣痛が去った合間に、美里の頬を撫でて必死で声をかけた。



「美里、美里!ゆっくり息吸えって!焦んないで、深呼吸しろ!」



俺の声に、閉じられていた瞼が薄く開いた。
瞳が動いて、俺を見たのが解った。


ゆっくりと深呼吸して、息を吐ききったところで唇が緩く綻ぶ。



「ふ……死にそうな顔」



俺を見て、掠れた声でそう言う彼女に喉が詰まる。


いや、今死にそうになってんのはお前の方だろって言い返したかったが出来なかった。
そのお前に心配されるくらい、今の俺は情けない顔をしてるのか。


唇が痛みに歪んで、また陣痛が来たことを悟る。
けれど 「大丈夫」 と呟いた後、下唇を噛み締めた。


薄く開いた美里の瞳に、光が戻ってきたのがわかる。
俺の手を、逆手に握り直して痛みに備えた。


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