恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
痛みの合間で、また彼女が脱力する。
唇が乾くのか、小さく舌舐りをして力なく目を開いた。



「…今日、仕事暇だった?」

「あ?あぁ、平日だしな。問題なく早退できた。店長いる日だったし」

「あぁ、あの役立たずの店長ね」



ふふ、と笑いを零す。
意識を逸らして、陣痛の恐怖から逃れようとしてるのがわかった。


それでも、波は必ず彼女を襲う。
痛みの余波が来るたびに、彼女の顔は今にも泣き出しそうに歪んだ。



「…痛い…怖い。もうしんどい…」



初めてじゃないだろうか、こんなにもストレートに弱音を吐く美里を見るのは。
陣痛の度に怯えて、握った手が小さく震えて。



次第に、合間に交わす軽口の余裕もなくなる。



「笹倉さん!次の陣痛がきたら、もっとしっかり最後までいきんで!出ないと赤ちゃん進まないよ!」



先生の言葉に最早声も出ず、小さく何度も頷いては見せたが。


陣痛が来れば、その恐怖からか焦って息を吸い過呼吸のような症状を起こし始める。
胸が激しく上下して、唇が紫色に変色していた。
波が去った後も、がくがくと震える彼女の太腿を見て。


怖くなった。
このまま死んじゃうんじゃないかって。
< 391 / 398 >

この作品をシェア

pagetop