恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~


それからの家路、何事もなかったように振舞おうとしたけれど、多分上手くいかなかった。
だからもう諦めて、恵美に言われた言葉を頭の中でリピートさせている。


馬鹿にしてるなんて、ないのに。
何か、後ろめたさを感じて、言えなかった。


母のことや、恋愛話から逃げているのは事実だから?


恵美は私の行動に、ずっと不快感を持っていたのかもしれない。
ちゃんと恋愛について、笹倉との関係について考えろって。


私に恋愛感情は無いっていうのに。


…恋愛感情って、誰かと離れたくないとかそういう、執着しかイメージが湧かなくて。


執着しなくちゃ、恋じゃないと私は思ってるのか?
綺麗に言っちゃえば、相手の幸せを願うとか、そういうのも愛情じゃないのか。


…現実にそんなのあるか?無いよ。
じゃあ、信じてないってことは馬鹿にしてるってこと?



腹の底から、随分と重い溜息が出た。
考えても、私の中にきちんとした答えが見つからない。



「どしたの、お前。」



当然の疑問は、ずっと三叉路で立ち止まったままだから。
差し伸べられた手をじっと見つめながら、動けないでいた。



「帰り、様子おかしいから。誘ってんのに」



後ろめたさの原因は、わかった気がした。
こうして弱った時に差し伸べられる手に、甘え続けてきたからだ。


真面目な付き合いでもないのに。


笹倉が、差し出した手を持て余し、空でひらひらと遊ばせる。



「何、好きな男でも出来た?」



じっと見ていた舞う手のひらから彼に視線を向ければ、笑った顔がなんだか柔らかくて。



「なんか、色気ある。女の顔してるもん、お前」
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