恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「お客様、此方が2千円のセットで此方が3千円のセットですが、如何いたしましょう」


激しく動揺してしまった私は、軽く会釈だけして話を流そうと試みた。


「あ、2千円の方で。くれはちゃん」



まじでやめて!今名前呼ぶ意味なかったよね?
閑散とした店内がこれほど憎いと思ったことはない。


他店の販売員に
「狭山さん、下の名前くれはっていうんだっけ?」
とかそんな会話がされてそうな気がする。


考えただけで、かっと頬が熱くなる。
俯いたまま顔を上げられずに話す私に



「お熨斗紙は如何いたしましょう」

「無地でいいよ、くれはちゃん」

「……くれは?」



別方角から止めを刺される。
中番で今出勤してきた、カナちゃんだった。


思わず発してしまったのだろう、此方を見ながら慌てて口元を抑えている。


これ以上は耐えられず、思い切って相手を見上げた。


「すみません、狭山と申します。商品すぐにご用意致します……」


視線は随分高いところから。にやりと見下ろす顔があった。



…コイツ、わざと連呼しやがったぁ!


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