恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~


「すごく、信頼しあってるように見えるの。カナちゃんだって、何か気づいてたでしょ?傍から見てても、気持ちが繋がってるように見えるから、そうなったらいいなって。一度真剣に考えてみたら?」



蛇口を閉め、手を拭きながら洗面台の鏡を見ると自分と目が合った。
頭の中は先ほどの恵美の言葉がくるくる回っていて、少しばかり複雑な顔をしているのがよくわかる。


あ、化粧直ししとくか。
鼻の頭がテカってる。



信頼してるのは確か。
絶対的に、信じてる部分はある。


でもそれは、男女の機微が無いから成立しているようにも思う。
というか、そう確信してる。


身体だけから、恋人へ認識を変えたら。
自分の気持ちの浅さにまた、申し訳なさを感じるかもしれないし、今までは束縛しなかった笹倉がどう変わるかもわからない。


第一、笹倉がそれを望むかどうかだよね。
そう思うと、ますます今更というか……


あぶらとり紙をくしゃっと丸めて、ゴミ箱に捨てると、ポーチを持って女子トイレを出る。


押した扉が、反動で戻るか戻らないか。まだキィと音がしてるうちのことだった。



「わっ?!」



ぐいっと後ろから絡めるように肘を引かれて、どこだか知らない扉の中に連れ込まれた。



「ちょっと!何?」



誰かは見えなかった。
振り返ろうとする前に、後ろから腕が腰に絡んで動きを邪魔されたから。



「やっと捕まえた。中々、アンタも回りもガード堅いな。遊人みたいに話してたくせに」



背後から感じる背の高さでもしかしてと思っていたけれど、声で確信した。



「藤井さん。私、生活圏内に入った人間とは遊びませんよ」



真上を向くと、吐息がわかるくらいの、至近距離。
背後から覗き込む、藤井さんの顔があった。



< 67 / 398 >

この作品をシェア

pagetop