恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「一期一会で。それを崩す気ないんです」

「ふぅん」

「職場も知れた人と遊ぶなんて無理です。後々気まずいじゃないですか…ちょっと…聞いてます?」



絶対聞いてない。
私の頭に口づけを落とすと、身体に回した手が二の腕の素肌を撫でて手のひらまで辿り着き、指先でその内側を擽った。


手は握られたまま、少し身体を解放されたと思ったらくるんと反転させられて向かい合わせになる。


やっぱり背、高いなぁ。
首が痛い。


見上げる姿勢で得意げな顔の向こう、薄暗い部屋の様子が漸く目に入る。


「この部屋、どこ?」

「店の貯蔵庫。奥にワインセラーがあるんだ」



近すぎて態と視線を奥にずらしているのに、空いてる手で顎を掴まれて方向転換させられる。



「取引先でこんなことしてたらまずいじゃないですか!」

「大丈夫、既に何度か見つかってるから。マスター、結構フランクな人でさ」



最低だ。


ぐっと手を引き抜こうとしたけど、強く掴まれた手は痛くはないのに、びくともしない。
顎にあった手が、いつの間にか首筋から髪に指を差し込むようにして肌を摩る。



「いい加減に……」


いらっとして、人でも呼ぼうかと思いながら藤井さんを睨んだら。


「うるさい女だな、ちょっと黙れ」

「な!ちょいちょい口悪いですよね?!それが素ですか?!」



ちゅ、と手の甲で音がして


掴まれた手に口を寄せる藤井さんと目が合った。
ずくん、と胸が疼いて声が詰まる。




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