恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「みさもいい加減、ちゃんとした彼氏作れば?」


食後のアイスティを飲みながら、急にそんな話を振られた。
ストローでカラカラと氷をかき混ぜながら恵美へと視線を向ければ、じっとこちらを凝視している。


なんでか、真面目な話らしい。


「黙ってれば清楚系だし。とびきり美人ってわけではないけど、スタイルは悪くないし。真面目な付き合いしようと思えば相手はたくさんいるのに。勿体無いなぁ」



殆ど褒めてないよねそれ。


そういう恵美は誰もが振り返る美人さんだ。
大きな瞳に、ふわっと毛先をカールさせた髪が優しい雰囲気を漂わせる。


職場では長い髪はお団子にまとめてレースの三角巾にかくされているから、オフモードの今日は尚更可愛く見えた。


そんな彼女にはちゃんと会社員の彼がいる。


「ちゃんと、彼氏作ってたこともあるんだよ?」


視線を少し天井に向けた。


ちゃんと好きだったと思う。
好きになってもらっていたとも思う。


特に何があったとか、そんなことはない。
ひどく傷つけられて怖くなったとか、理由があるわけではないのだ。


裏切ったのは私の方だ。



「だめだよ、私は。殆どためらいもなく浮気できちゃうもん。元彼の時も、ちょっとしたことで喧嘩して。帰り道にナンパしてきた男と遊んで。好きなつもりなのにこんな簡単に遊べちゃう私は、まともな付き合い向いてないんだって」


罪悪感がなかったわけではない。
けれどベッドの中で別の何かとすり替わった。


きっと貞操観念ってやつが私の中には無いのだと、気付いた。



「それって、本当に好きな人に出会えてないってだけじゃないの?」



恵美の言葉に苦笑した。もしかしたら、少し卑屈に見えてしまったかもしれない。



「綺麗な表現してくれてありがと。だとしたら、結局そんな出会いがあるまではこれで良くない?たまにある軽ーい出会いと、笹倉で」



今度は恵美が苦笑する番。



「何かそれ、微妙な告白」

「後腐れなく笹倉がいればそれでいい」



にやりと片頬を上げて笑った。
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