恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
特に店は決めてなかったが、この頃昼休憩によく使うオーガニックカフェにした。
駅を出てから徒歩数分。


職場である百貨店もこの駅だったりする。
初夏の日差しに耐えられず恵美の日傘に同居した。


帰り道、日傘買おう。


無垢材と漆喰の白壁の店内は、観葉植物やピクルスなど食材の入った硝子のボトルでカウンターが飾られていて、とてもお洒落。
最近の私達のお気に入りだ。


二人とも、本日のランチの夏野菜スープカレーと玄米ご飯のセットにした。野菜たっぷりでほんと美味しい。



「みさ、今日は髪巻いてるんだ。珍しいね」

「これ?笹倉が巻いてくれたの」



シャワーの後、あたふたする私の手からドライヤーを抜き取って、笹倉がブローを引き受けてくれた。


おかげで私はメイクに専念できたわけだけど、時間が余ったらしい。
勝手にコテを出してきて巻いてくれた。



「ほんと、あの男器用だわ」

「瑛人くん、泊まってたの?一緒に来たら良かったのにー」


残念そうに恵美が呟く。
私はバームクーヘンが売りのメーカー、彼女は隣のユニットのカステラ屋。


笹倉は通路を挟んで向かい側の洋菓子メーカーだ。
会社は違うが、三人とも同じ洋菓子フロアで働いている。


私と笹倉のイーカゲンな関係は恵美以外には秘密だった。


第一、私はその場その場で関係をもつが、職場の人間には手を出したことはない。そんなことをしたら、働きにくいことこの上ないし。


笹倉は思わぬ例外だった。
フロア仲間の飲み会で、飲み過ぎた結果の事故物件。


お互い、1人に縛られるのはゴメンの性格だったから良かったものの、以来職場の飲み会では控えめに心がけている。



「昨日合コンで女の子とお泊まりで、来たのは今朝。今日は遅番らしくて。一度帰って、午後から出勤するって帰ってったよ」

「……合コンで、朝からみさとで、んで仕事?」

「そ。元気よね……こっち腰辛いんだけど。同い年のはずなんだけど」

「ちょ…赤裸々」
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