2LDKの元!?カレ

やがてラルゴ十二月号の発売日を迎え、同時に西野くんが編集部を去る日が来た。

「短い間でしたが、お世話になりました」

カラリとしたあいさつに、私は彼らしいなと思った。デスクに戻ると、書類の整理をしながら西野くんは言う。

「オレのこと恋しくなったら、いつでもフランスに来てくださいね」
「……うん、そうする」

その日の夜、彼の送迎会はル・シエルで行われた。

西野くんが退職するきっかけを作った鏑木圭からのお詫びの気持ちだそうだ。部員たちは大喜びで、めったに味わえないフレンチのフルコースを堪能した。

数日後。

社内の会議から戻った編集長は上機嫌で私の肩を叩く。

「小松、やったわね。ラグジュアリーナイトの反響、思った以上よ」
「本当ですか、よかった。西野くんにもメールで知らせてあげないと」

発売されてからの売れ行きは好調で、中でもラグジュアリーナイトは出版業界の関係者からも好評を得ているらしい。

当初の目的通り、鏑木圭のインタビューが大きな誘引力になったといえるだろう。

肝心の西野くんはすでにフランスに旅立ってしまった。讃えられるべきは彼なのに。

私は誰もいないデスクに視線を落とした。

真田さんは西野くんがいなくなってからしばらくは落ち込んでいるようだったけれど、今は普段通りに過ごしている。

そんな彼女も翌年の春になり、正社員登用試験に合格した。

本誌連載の朝カフェ企画を引き継ぎ、私は新しく著名人のリレーコラムを提案し、その担当となった。

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