飛べない天狗の僕ですが。

「じゃあ圭一。着替えたらホールに来なさい。直に始まる。私は喪主を任されたから、母さんたちのところに戻るよ」

「ありがと、父さん」



父さんの車で送ってもらい、会場へ入ると、そこは天坊様の人徳を思わせる人入りだった。獣や人間だけでなく、妖の類もいるようだ。母が用意してくれたという紋付袴で正装し、僕もホールへ向かった。




「やあ、圭一じゃねえか!」




声をかけられ振り返ると、そこには狐が立っていた。隣の山に古くから住む化け狐だ。名を宗治という。彼とは天坊様のところでよく会い、親しくなっていた。



「立派になったなあ。紋付が実によく似合っているじゃないか」

「いや、そんな」



久々にあった、宗治の言葉に口ごもる。母が用意してくれた黒の紋付は確かに立派でサイズも僕にピッタリだった。

しかし、天狗の力を未だ持たない僕に、高羽家の団扇を模した、紅葉の紋付を着るのは恐れ多かった。


狐は人を化かすのが得意だが、宗治は人を馬鹿にするような狐ではないので、ただ、褒めてくれただけなのだろう。だが、久々に一族が会する場に来て、縮こまっていた僕は、更に窮屈になってしまった。


それは目に見える程だったらしく、宗治は豪快に笑い出した。そして僕の背中を力強く叩いた。




「……イっ!」

「縮こまることねえよ」



宗治はいつの間にか青年の姿に化けていた。凛々しい顔で、僕に真っすぐな目を向けて言う。



「オマエが高羽家の天狗であることは、まごうことなき事実なんだ。確かに、天狗としての才が他に劣るのは事実だが、オマエという一存在が劣っている訳ではないだろう。気にするな。胸を張れ」



宗治はそう言って、僕の肩をガッシリと抱いたあと。会場へと去っていった。

その頼もしい後ろ姿を見つめながら、僕はなんとも言えない気持ちになる。


天狗界の落ちこぼれだった僕と、狐界の期待の星でありながら悪ガキだった彼。


一族に馴染めないのは同じでも、その理由は正反対だ。才能のある彼が羨ましい。


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