飛べない天狗の僕ですが。
「……あっ!」



思わず声を出してしまった口を覆う。

小宮百合子が、飛び降りた、のだ。

勿論、屋上側へではない。校庭側、つまり5階建ての校舎の屋上、さらに貯水タンク上から遥か下の地上へだ。


信じられない光景だった。彼女が風を受けながら落ちていくのがスローモーションに見えた。



自殺?まさか!



走って駆け寄ろうとした瞬間、一際強い風が吹いた。



僕は立ち止まり、唖然として開口してしまう。


彼女がもう一度姿を現したのだ。


風に乗って、美しく翻りながら上空へ。

まるで風と舞でもしているかのように。ひらひらと、するすると昇っていく。


長い黒髪をなびかせて山の方へと。


あっという間に遠ざかり、ついに見えなくなった。


僕は、しばらく何も考えることができず、小宮百合子がとけていった空を、呆然として見つめていた。


小宮百合子は何者なんだ。


やっと回転しはじめた頭で、思考を巡らす。


あれではまるで天狗ではないか。


彼女は僕の同族なのだろうか。



確信に近い、その疑問への答えは出ないまま、そのすぐあとに迎えにきた父の車に僕は乗りこんだのだった。



< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop