オクターブ ~縮まるキョリ~
*蒼*


5月。

なんとなくクラス内で友達の輪がいくつか出来た頃。
私も隣の席の子の友達グループに、所属するような形になった。
あまり派手な遊びはしない子たちだったので、話題は昨日見たテレビのこととか、先生への愚痴とか。
一人ぼっちになる不安があった私には、そういった平凡で普通のことが嬉しかった。


ある日の放課後、私は学校近くの駅ビルにあるCDショップに来ていた。
久々にプロのクラシックピアノが聴きたくなって、友達と別れてひとり寄り道していたのだ。
今でもピアノは習ってはいるけど、幼い頃に聴いていた難曲には手が出せなくて。
それでも憧れは捨てられなくて、同じ曲を色んなピアニストが弾いているのを聞き比べるのがちょっとした趣味になっている。


「えーと、ショパン…ショパン…『C』の棚は、っと」


あった。
私のお目当てのCDは、「C」の棚の…ちょっと上の段に置いてあった。


「ちょっと、届くかな…」


手を伸ばしてみると、指がぎりぎり届くか届かないかのところ。
指の先で目標のCDを下から押し上げるようにしてみたが、棚には隙間なくCDが埋め尽くされていたため、私のお目当てのものは浮いてしまい、逆に取りづらくなってしまった。


「うーん…これは踏み台がないと…」


私はそう思って踏み台を求めてフロアを見渡す。
そうすると、踏み台より先に背の高い店員さんを発見した。

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