オクターブ ~縮まるキョリ~
私が立ち尽くしていると、永山くんは前を向き直り階段を昇り始めた。
一段一段、ゆっくりと昇っていく。
永山くんと私の距離が遠くなる。
彼はもう上まで行ってしまっている。
私は立ち止まったまま。
「……樫原?」
永山くんがこちらを振り返り、不思議そうに私を呼ぶ。
逆光で顔が見えづらい。
「あ、うん」
私はそう答えて、駆け足で階段を昇る。
そして、すぐに永山くんに追いつく。
私が隣に並んだことを確認して、永山くんは角を折れて廊下に入る。
どこかから入ってきた追い風が私たち二人の背中を押す。