オクターブ ~縮まるキョリ~
*夏*


「詩帆ー、遅刻するわよー!」

「わかってるー!」


バタバタと家の階段を駆け下りながら、お母さんの言葉に応える。


「もう、ギリギリじゃないの」

「だって!お母さんが起こしてくれないんだもん!」

「何言ってんの、何回も声かけて起こしたじゃない」

「私が起きなきゃ『起こした』なんて言えないよ!」


お母さんに口答えをしつつ、私は朝食のトーストを頬張る。
そして、咀嚼が不十分なまま牛乳でそれを押し込む。
テレビに映った時計を見ると、もう遅刻ギリギリの時間だった。


「行ってきまーす!」


慌ただしく玄関を出て、携帯で時間を確かめる。
このまま走れば、なんとかあの電車には乗れそうかな。


今日、遅刻するわけにはいかない。
だって今日は一学期最後の日。


終業式の日なのだから。

< 46 / 107 >

この作品をシェア

pagetop