オクターブ ~縮まるキョリ~
*祭*


まだ空が明るい、夏の18時。
私は散々迷った挙句、結局は最初にこれと決めた浴衣に身を包んでいた。
白地に藍や紫のあさがおをあしらった、少し大人っぽい柄。
ピンク系の可愛い柄もあったのだけれど、クラスの誰かとかぶりそうだったし、こっちの方が涼しげだったから。
お母さんに着付けてもらって、少し歩きづらいけど、それもイベントの一部のようで気持ちが高ぶった。


待ち合わせの神社の境内に行くと、そこには既に何人かの女子が集まっていた。


「やっほー。」

「あ、詩帆ちゃん。」

「わー、樫原さんの浴衣、大人っぽくていいね。」

「本当?ありがとう!みんなのもすっごく可愛いよ!」

「わーい!ありがとう!」

「それにヘアスタイルもきちんとしてるし、えらい!」

「これねー、ママにやってもらったんだー!」

「へー、すごーい!」


普段一緒に遊んだりするグループの子じゃなくても、こういう時は特別仲良く話せる。
夏休みが始まったことと、普段とは違う格好とで、みんなもウキウキしているのがよく分かる。


楽しいことが、特別なことが、始まる予感に心を躍らせている。

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