オクターブ ~縮まるキョリ~


「あれ?そういえば、由美ちゃんってもう来てる?」


私はあたりをキョロキョロと見渡すが、友人の姿は見当たらなかった。


「あ、須藤さん?まだ来てないみたいだけど…」

「そっか。」


そう言って、私は濃紺色の巾着袋からケータイを取り出す。
見ると、時間は18時ちょうど。
いつ頃に着くか、一応メールで訊いてみようか。


「ねえ樫原さん、一緒に屋台みようよ。」

「あ、でも私、由美ちゃん待つことにするよ。良かったら先に行ってて。」

「いいからいいから!時間に遅れるのが悪いんだし!メールすればどこでも会えるでしょ!」

「えっ、でも、まだ来てない子の方が多いよね?」

「まあまあ、アタシもうおなかすいちゃったし!」

「えっ、ちょっ」


待って、という前に、その子は私の手首を半ば強引に掴んで引っ張っていく。
その勢いに、思わずケータイを落としそうになる。


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