オクターブ ~縮まるキョリ~
明日歌に無視をされないだけ、よかったと思う。
正直、なんだか安心した。
明日歌も、春瀬くんの走る姿を見ていたのだろう。
クラスメイトだから、席が近い彼だから見ていたというのではなくて、もしかしたらそこには何か特別な感情があるのかもしれない。
ただの推測でしかないのだけど、春瀬くんと話す明日歌は、本当に楽しそうだから。
もしかして、あの日……あのドッヂボールの日、春瀬くんに運ばれる私を見て、明日歌も何か思ったりしたのだろうか。
由美ちゃんが言っていた、「やばいことになってる」の中に、明日歌のことも入っていたのだろうか。
明日歌とは席は近いものの、会話らしい会話はほとんどしたことが無くて。
だから私は、明日歌の気持ちを、数少ない材料から推測するしかなかった。
「集合!!」
「ハイッ!!!」
陸上部の号令が遠くに聞こえた。
セミがジワジワと鳴き始める。