オクターブ ~縮まるキョリ~
「……ちょっと待って、どこに行くの?」
屋台を見に行こう、と言った割には、彼女は神社の境内の脇へと私を引っ張っていく。
人けが無くなり、往来のざわめきが少し遠くになる。
……待って。
待って。
これって、もしかして。
何か、マズイことになっているのでは。
社務所の前まで来たところで、彼女は私の手を離し、こちらを振り向いた。
その表情を見て、私は確信した。
これは、やはりマズイことだ。
いわゆる、ヤキ入れだと。
その瞳は、完全に悪意と憎しみで満ちていた。
さっきまでの楽しそうな笑顔はどこにも見当たらない。
ママにやってもらったという華やかなヘアスタイルは、その表情に全く似つかわしくなかった。
今、私の目の前に居るのは、私が知っているクラスメイトではなかった。