オクターブ ~縮まるキョリ~


永山くんと私は、神社の参道のわきでじゃがバターをつついていた。
たっぷりつけたバターとたらこの酸味が、じゃがいものほのかな甘みにベストマッチする。
熱々のじゃがいもを口の中でハフハフと冷ましていると、こちらを見ている永山くんと目が合った。
永山くんは私の間抜けな顔を見てふっと笑う。
私は慌てて口元を押さえて、それから自分でもおかしくてなって、つい笑顔になる。


じゃがいもを頬張りながら、私たちは他愛もない話をした。
夏休みの予定とか、クラスのこととか、バイトのこととか。
聞くところによると、永山くんは高級ヘッドホンを自分で買いたくてバイトをしているんだとか。
恐る恐る値段を聞いてみると、


「……ろ、6万円…」


とんでもない金額だった。


じゃがバターを食べ終えて、ふたりで屋台を見ながら歩いていると、クラスメイトの団体が目に入った。
もしかすると、さっきの女子3人も居るかもしれない。
思わず足を止めると、永山くんは「こっち」と言って横道い誘導してくれた。


「そろそろ帰るか。」


永山くんは自転車のハンドルから片手を離し、パンツのポケットからケータイを取り出して言う。


「そうだね……あの、今日は本当にありがとう。」

「いいって。たまたま通りがかっただけだし。」


そう言いながら、永山くんは時刻を確認する。
空の色は、時間が経っていたことを示していた。


< 78 / 107 >

この作品をシェア

pagetop