オクターブ ~縮まるキョリ~
「……どうする?俺、帰るけど。」
永山くんはそう言って、地面の小石を蹴った。
「あ、うん…」
私は曖昧な返事をする。
正直なところ、もうお祭りを楽しめるような気分ではなかった。
人ごみの中で、さっきの3人に会ってしまったら気まずくて仕方ない。
けれど……
物置の奥から引っ張り出した、黒塗りのゲタ。
お母さんに借りた、濃紺色の巾着。
悩みに悩んで決めた、アサガオの柄の浴衣。
自分の格好を見下ろして、なんだか自分に申し訳ないような気持ちにもなった。
この日のためにせっかく準備してきたのに、お祭り気分を味わえないのは、やっぱりもったいない。
それに、このまま家に帰っても、色々と考える時間が長くなるだけのような気がする。
「……腹へったな。」
私が逡巡していると永山くんがぽつりと言った。
見上げると、目が合った。
「何か食っていかね?」
「……うん!」
反射的に答えると、永山くんはわずかに口角を持ち上げて頷いた。