桜舞う
帰還と再会
吉辰が出陣して二月になろうとしていた。鈴姫は松江と寝起きを共にするようになって夢を見ることはなくなった。しかし、離れている寂しさは長刀を振っても父・辰之介の食事を作っても消えず、よく吉辰と見た桜の木を見に散歩に出るようになった。吉辰が、桜を好きということに気づいてくれた場所。初めて2人で出かけた場所。そこに行けば、吉辰がそばにいてくれるような気がして、鈴姫は吸い寄せられるように通っていた。

よく晴れたある日。鈴姫はいつものように共もつけず、一人で桜の木の下にいた。

そろそろ夕餉の支度をしなくてはと思い、城に引き返そうとしたとき。向こうから松江が走ってきた。

「姫様‼︎殿が今夜お戻りになるそうです‼︎さきほど使者がまいりました。」

松江の言葉を聞いた途端、鈴姫は全力疾走で城に向かった。高鳴る鼓動を必死に抑えながら。
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