桜舞う
穏やかな時間①

安心する場所

「えぇ‼またあの夢を⁈」
悪夢から一夜明け、部屋でぼんやりしていた鈴姫は、繕い物をしていた松江に夢のことをさりげなく話した。和那の国に来てからというものの、鈴姫は一悪夢に魘されることなく、健やかに毎日を過ごせていた。松江はここにいれば悪夢に魘されることはないのだと、安心していた。嫁入りしてまだ間もないが、今までとは明らかに違う鈴姫の様子に、松江も鈴姫と同様、夢のことを忘れかけていた。
「姫様、昨夜は大丈夫でしたか?もしあまり休まれていないのなら少し横になられては…。」
「…いや。吉辰様が、夢を追い払って下さった…。」
壁に寄りかかり、障子の隙間からぼんやりと外を眺めながら鈴姫は一人言のように話す。

「暖かい腕だった…。」

最後の一言を松江は聞き逃さなかった。
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