桜舞う
穏やかな日々②
夢に魘された一晩以来、鈴姫は夢に魘されることはなかった。しかし、違う意味で緊張することが少々あった。

夢に魘されてからしばらく経った頃。鈴姫が寝所に行くと、大きめの布団が一組だけ敷かれていた。どうすればいいのか分からず、布団の側に小さくなって座り吉辰がくるのを待った。
当然、夫婦なのだから夜は一つの布団で休むことはあった。しかし、必ず二組の布団が敷かれていた。

(どうしよう…。)

一人悶々と考えていると、夜着に着替えた吉辰が戻ってきた。

「やっと見つかったみたいだな。」
吉辰は鈴姫の隣に腰をおろした。
「あの、これは…」
「わしや姉上が赤子の頃、母上がわしら赤子と共に寝るのに使っていた布団だ。かなり昔故、どこにしまったか分からなくてな。」
吉辰は詳しく説明してくれたが、鈴姫のほしい答えではなかった。
「えっと、どのようにして床につけばいいのでしょうか…。」
「うん?共に一つの布団で寝ればよい。」
吉辰はあっけらかんと答えたが、鈴姫は急に恥ずかしくなり、下を向いてしまった。
吉辰は鈴姫の様子に思わず笑いをこぼした。そして鈴姫の手を握り、

「わしは鈴に安心して眠ってほしいだけだ。わしが悪夢など追い払ってやる。」

吉辰の言葉に鈴姫ははっと顔を上げ、吉辰の顔を見た。やはり吉辰は優しく笑みを浮かべている。まだ話していない鈴姫のすべてを受け入れているような、優しい笑み。その優しさに鈴姫は安心感を覚え、思わず笑みをこぼした。

「初めて普通に笑ったな。」

吉辰は大きな手で鈴姫の頬を包み、顔を近づけた。突然緊張が走り、鈴姫は目を伏せたが、吉辰に「鈴」と呼ばれるだけで再び安心感を得て笑みをこぼした。

床に就く瞬間から目覚めの瞬間までずっと一つの布団で寝るのは緊張するが、鈴姫は吉辰の優しさに身を委ねた。
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