桜舞う
鈴姫が和那の国に来て、吉辰の嫁となってから一月がたった。鈴姫は吉辰や父の辰之介の前では少しずつ笑みを浮かべながら話せるようになっていた。また、松江を伴い吉辰と見た桜の木の下にもよく行くようになった。

そして、鈴姫も一つ行動をとることを決めた。

「鈴姫様‼そのようなことは私共でやりますので、お部屋でお休み下さい‼」
「そうですよ‼」
城の侍女達が慌てている理由。それは鈴姫が台所で夕餉の支度を始めたからである。
「昔は畑を耕しながら台所に立っていたのですからこれくらい大丈夫です。私にも手伝わせて下さい。」
40代前後の侍女10人に鈴姫は頭を下げてお願いした。
もともと鈴姫は兄や兄嫁の世話をしていたのもあり、料理や縫い物、洗濯などは得意であった。吉辰や辰之介のために、何かしたいと思い、勇気を出して台所に立った。

「姫様‼頭を上げて下さいな‼」
「そうですよ‼わたしらにはもったいないですって‼」
「鈴姫様がそこまで仰るのでしたら、何も言えませんって‼」
「鈴姫様みたいな可愛らしい奥方にご飯作ってもらえるなんて吉辰様は幸せものだねぇ〜」

侍女たちの華やかな雰囲気に鈴姫は驚いたが、昔の朝市のような空気に懐かしさを覚えた。隣の松江を見ると、松江も微笑んで頷いた。

「さぁでは姫様‼急いで夕餉の支度をしてしまいましょう‼」
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