契約妻ですが、とろとろに愛されてます
眩暈が治まり立ち上がった時、ドアが開いた。


「琉聖さん……」


入ってきた琉聖さんは眉に皺を寄せて、険しい顔をしていた。


「柚葉」


困惑気味の私の顔から花篭に視線が移る。琉聖さんの手がさっと伸びて持っていた花篭を掴み、そしてゴミ箱に放り込む。


「琉聖さんっ!」


「ベッドに戻るんだ」


「お花が……」


「花瓶に入らないくらいあるだろう?」


琉聖さんからの花束は数個の花瓶を要し、飾られている。


「でもっ!お花が可哀想」


私はゴミ箱に駆け寄って花篭を取り出した。


「柚葉!」


有無を言わさない声と共に、私の身体がふわっと浮いた。それでも花篭は離さなかった。


「ごめんなさい……菜々美さんは好きになれなくても、お花は生きているから……」


琉聖さんは困ったようにため息を吐いた。


「そうだな 俺が悪かった さあ、ベッドに戻っ――」


「あら~ 病室でもラブラブなのねぇ!」


ベッドに行きかけていた琉聖さんの足が止まって、その声に振り向く。


「お袋、ノックぐらいしろ!」


貴子さんだった。


「ノックしたわよ~ 返事がないから開けちゃったのよ 柚葉ちゃん、ごめんなさいね」


琉聖さんにお姫様抱っこされたまま話しかけられて、私は恥ずかしくて頬が赤くなっていくのを感じた。


「どう?具合は?柚葉ちゃんが入院してるって昨日知ったのよ お見舞いが遅くなってごめんなさいね」


柚葉はベッドに降ろされると、ホッとして貴子さんを見る。


「まったく嫌になっちゃうわ このバカ息子ったら 早く教えなさいよ」


「早く教えたら暇さえあれば病院に来るだろ」


「だって柚葉ちゃん、可愛いんだもの」


「柚葉が疲れる」


ふたりのやり取りに、私はハラハラして聞いていた。


菜々美さんが現れてイライラしているのだろうか、貴子さんと話す声も冷たく聞こえる。でも、貴子さんはそんなのおかまいなしに私に話しかけてくれる。


少し経ってから貴子さんは琉聖さんに追い立てられるように有名パティスリーの大きな箱を置いて「また来るわね」と言って帰ってい行った。


「毎日来そうだな……」


やっと病室が静かになり、やれやれと言った風だ。疲れているのは琉聖さんなのかもしれない。私はなんだかおかしくてクスッと笑った。

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