契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「ひとりでも出掛けるからっ」


柚葉は泣きながら俺の胸に飛び込むと声をあげて泣いた。こんな涙は初めてだ。辛い検査でも涙は見せなかったのに。


「ゆず……」


むせび泣く、震える肩をぎゅっと抱きしめた。


柚葉が心配のあまり俺は行動を制限し閉じ込めすぎたのか……。


「……わかった。ドライブへ行こう」


柚葉は涙を拭きながら俺を見た。


「……本当に?」


「ああ しっかり朝食を食べるんだ そうしたら出掛けよう」


柚葉をダイニングルームに連れて行き元の席に座らせた。冷めてしまった紅茶を捨てて、新たにカップに注いでやる。


顔色の悪い柚葉が心配だが、甘えさせてあげたい気持ちが俺の心を占めた。


ドライブへ行けるとわかっても柚葉の顔に笑顔は見られない。



******



「どこへ行こうか?」


自分の我が侭だってわかっている。体調も良くないことも。わかっているのに、通院以外は外出していないせいか、心に溜まった鬱憤みたいなものが爆発して琉聖さんに当たってしまった。


「ゆず?」


「え……?」


琉聖さんに呼ばれて我に返った。


「どこへ行きたいんだ?たくさん行きたい所があって決められないとか?」


「う、うん……行きたい所はたくさんあるけど……海に行きたい……」


行きたい所は考えていなかったので、頭に浮かんだ場所を言っていた。


「海か……寒いから温かい格好をした方がいいな」


我が侭を言っている私に辛抱強く付き合ってくれる琉聖さんに申し訳ないと思っている。


子供のような態度を取ってしまった。


「うん、後で着替えてくるね」


私は琉聖さんに安心してもらえるように微笑んだ。

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