契約妻ですが、とろとろに愛されてます
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髪形をどうするか決めかねているところへ、寝室のドアが静かに開いて琉聖さんが現れた。


「あ……」


鏡の中の琉聖さんの金色を帯びた瞳とぶつかる。


「お帰りなさい」


ブラシを持つ手を止めて琉聖さんに向き直る。


「ああ 用意は済んだのか?」


「あとは髪を……」


仕事をしてきたはずなのに、入ってきた琉聖さんは憎らしいほど爽やか。


シャンパン色の瞳でじっと見つめられると、しだいに心臓が暴れはじめてくる。


恥ずかしくなって視線を逸らした私に琉聖さんは近づいてくる。


そして私の顎に指をかけて、そっと持ち上げると唇を重ねた。思いがけない優しく啄ばむようなキスに切なくなって胸がキュンとなる。キスはいつ止めるのだろうと思うほど、角度を何度も変えていく。そのキスに引き込まれ夢中になりかけた時、我に返った。


「っ!……や!」


私は琉聖さんの胸に両手を置くと乱暴に離れた。


優しくキスされて悟ってしまった。


キスされて……その先までしてしまったのに、琉聖さんを愛さない自信はない。拒絶することでこみ上げる想いを取り払いたかった。


俯いていると、私の首に冷たいものが触れた。


え……?


小刻みに震えている指を胸元にやると冷たい金属に触れた。


ネックレス……?


「キスの代償だ」


口の端を少し上げ、皮肉めいた表情で私を見ている。


「着替えてくる」


琉聖さんは踵を返すと戸惑う私を置いて部屋を出て行った。


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