あなたは笑顔で…
出会い
ひらひら…
ひらひら…
「綺麗……」
ニンゲンの世界に来るのは、仕事の時だけ。
実際にその人に会わないと命は取れないもの。
でもそれだけ。
いつもは時間がギリギリだから、ニンゲンの世界をのんびりこんな風に眺めたのは初めて。
こんなに綺麗な花を見たのも……初めてだわ。
茶色の幹に薄桃色の小さな花がたくさん咲いている。
ひらひら落ちるそれは、幻想的で、綺麗で、美しくて……
「何て言う花かしら……?」
近くにあったベンチに座り、持って来た図鑑を開いて探す。
でも、名前も何も知らないため、一つ一つ写真を見て探さなければならない。
「…違う……違う……違う……」
半分程見てもこの綺麗な花の名前は分からない。
「せっかくニンゲンの世界に来て本物の花を見に来たのに……」
どうしてここまで来て図鑑とにらめっこしているのかしら?
……時間の無駄に思えてきたわ。
「もう名前が分からなくてもいいわ」
帰って調べればいいものね。
「何が分からなくてもいいの?」
「きゃっ!??」
いきなり後ろから聞こえた声に驚いて変な声をあげてしまった。
「あ、驚かせた?」
ごめんごめん、と笑って言ったのは、色素の薄いさらさらな髪にはちみつ色の瞳をした赤ぶち眼鏡をかけたニンゲンだった。
見た目は……私と同じぐらいかしら。
「で、何が分からなくてもいいの?」
話しかけてきたニンゲンは私に人懐っこそうな笑顔を見せる。
……どうしようかしら。
私たちは人と関わることを避けなければならない。
理由は……詳しいことは知らないけれど、多分情が湧くからとかだろう……
そんなことあり得ないのに。
だから……まぁこのくらいの接触ならいいわよね。
「えーと……この花の名前が分からなくて……」
もういいかなぁー、なんて……と言うと、そのニンゲンは驚いた顔で私を見た。