あなたは笑顔で…




「“桜”を知らない人初めて見たよ。もしかして外国の人?」


「“サクラ”……」



それがこの花の名前……



「ね、外国の人なの?」


「外国……かどうかは知らないけれど、この世界のニンゲンではないわ」


「?……そうなんだ」



少し不思議そうな顔をしたけれど、ニンゲンはにこりと笑ってそう言った。




……不思議なニンゲン。



「こらーー、光くーん!また病院抜け出して!!」


「げっ」



桜を教えてくれた彼はやばい、という顔をした。



「……何をしたの?」


「いやぁ〜…たいしたことは何も?」



その顔は嘘ね。物凄く目が焦っているわよ。



「こら!捕まえたよ!また病院抜け出して……」


「あはは、すいませーん」


「もう……反省しなさい!」



その台詞を聞く限り常習犯ね。


それよりも……



「病院?」



その単語が何となく心にひっかかった。



「あー……俺、今病院にいるんだ」


「へぇー……」



そういえば服もそんな感じのものね。



「よかったら暇な時遊びに来てよ」


「……暇な時、ね」



多分行かないけど。


それじゃ!と行って彼は帰って行った。


というか引きずられるような感じだったけれど……



「変なニンゲン……」



まぁ、もう会うことはないでしょう。


そう思いながらも彼の笑顔が頭から離れない。


意味が分からないわ……



「気のせいよ、気のせい……」



きっと初めて生きたニンゲンとまともに話したから、知らず知らずの内に緊張していたのよ。



どうせ、もう会わないでしょうし。


忘れましょう。




その後、私はいろいろなところを歩いていろいろな花を見て回った。


たんぽぽ、アヤメ、菜の花、エンドウ……


そしていろいろなことを知った。


今は春と言う季節に入っていて、もう少しで五月と呼ばれて夏になる……とか。


私のいるところは季節なんてもの存在しないから、新鮮で楽しかった。


いつも仕事の時にはこちらに降りるけれど……季節なんて気にしたこともなかったし……


知らないことを知るのは楽しいということも初めて知った。











そして、季節は初夏に入った。






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