あなたは笑顔で…
「怒ったの?」
悪戯っ子っぽく笑う彼。
そのことにまたムッとする。
「……そんなことないわ」
「ほんと?」
「五月蝿いわよ」
「やっぱり、ちょっと拗ねてるじゃん」
ケラケラと笑う彼にちょっと殺意が湧く。
まぁ仕事以外でニンゲンの命を取ることは禁じられているからそんなことはしないけれど……
「んーと、じゃあこれから時間ある?」
「?……えぇ」
いきなり何?
まぁ、今日は何も予定をたてていないから素直に答える。
「それじゃ、病院に案内するね」
「……………」
「どうしたの?」
「……せっかく抜け出して来たんでしょう?いいの?」
「あぁ。別にまた抜け出すからいいよ」
「そう……」
どうして……そんなに笑顔なのかしら……
不思議だわ。
「んじゃ、行こっか」
声にしたがって私はベンチから立ち上がる。
ため息をついて先に歩いていた彼の後ろについていく。
心なしか彼の背中は嬉しそうだ。
「遠いの?」
「いや、近い方だと思うよ?」
「そう」
「うん。遠いと帰るのに大変だから」
「ふーん……」
あまり会話もなく、そのまま病院への道を進む。
この辺りは来たことないわね……
「ここだよ」
着いたのは真っ白で大きい綺麗な病院。
……何回か来たことあるかしら?
見覚えあるし……
病院って仕事多いのよね。
「どうしたの?」
いきなり私の視界にはちみつ色の瞳が入って来る。
「っ、何でもないわ!」
びっくりした……
あと、ドキッとしたわ。
いや、ぼーっとしていた私も悪いのかしら……
「んじゃ、俺の部屋行こうか」
「えぇ」
彼は私の手をとって進んでいく。
必要性を感じなかったけれど……何となく、振りほどくことはしなかった。