あなたは笑顔で…




『かわいい名前だね』




そんなこと……言われたの初めてだわ。


なんか……恥ずかしいかもしれないわ。



「あ、照れてる?」


「……別に」


「いや、絶対照れてるでしょ」


「五月蝿い」



ケラケラ笑うこいつにまたムッとする。


……誰かに重なって見えるわ。



「あ、俺の名前は先道 光。光って呼んで」


「先道…光……?」



やっぱり……


彼が今回の私の仕事相手……



「どうしたの?そんな顔して」


「え……?」



私、どんな顔しているの……?



「っ別に、何でもないわ」


「そ?ならいいけど……」



彼…光はにこりと笑った。



トクン……




………あれ、なんか胸が………?


例えられないような……気持ち。


ちょっと、混乱しているのかしら……


こんな風に仕事相手に会うなんて初めてだもの。


きっとそう。



「今日は、帰るわ」


「え?」



いきなり立った私に驚いた顔をする。


変に思われたかしら……



「……用事を、思い出したの」


「そっか……じゃあ、仕方ないね」


「……………」



少し寂しそうな笑顔を浮かべる光。




本当は、これ以上関わりを持ってはいけない。


そう……分かっているわ。



「なら、また今度暇な時に来てよ」


「…………」



なんて、答えればいいのかしら……



私が何も喋らなかったからか、光は不意に私の手をとった。



「待ってるから。華を」



そう言った彼の顔は、いつもの明るい笑顔じゃなくて、真剣そうな顔に見えた。



頷いてしまったのは、きっと、彼の明るい笑顔をもう一度だけ、見たいと一瞬、思ってしまったから……



「またね」


「えぇ……また」



帰る時に見せてくれた笑顔は、やっぱり明るくて、何故か心が暖かくなった。





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